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サイバー空間内足漕ぎ車いすの走行システムの評価に関する研究

はじめに

近年、自らの足を用いて移動する足こぎ車いすが注目されている。足こぎ車いすは主に片麻痺患者を対象としており、健常な側の足に十分な力があれば漕げるよう設計されている。足こぎ車いすを使用することによって、廃用症候群を防止し、精神的な面でも生活の質の向上が期待できる。しかし一方で、足こぎ車いすの搭乗者には脳卒中後遺症をもつ脳疾患経験者も多く、特に見知った場所で迷う地誌的見当識障害や視野の半分を認識できない半側空間無視は脳卒中後遺症のリハビリテーションを阻害する重要な因子の一つだ。  先行研究1)では、室内で図1に示すグーグルストリートビュー(Google Street View:GSV)を利用し、足こぎ車いすを漕ぐことで、搭乗者にとって身近な地域を擬似的に走行し、実車走行前の予行演習ができるシステムを開発した。しかし、空間を移動する際に周囲の画像の歪みや、移動元と移動先の間隔が広いことが原因で自分が今どこにいるかを把握する自己定位能力に影響を及ぼすとも考えられる。

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図1 Google Street View

そこで、本研究では、バーチャルリアリティ(Virtual Reality:VR)を用いて擬似的なGSV環境を構築し、どの程度移動の間隔が広い、あるいは狭い必要があるのか、どの程度の離散間隔が自己定位能力に影響を及ぼすのか検討を行った。

VRによる自己定位能力評価システム

本研究で構築した擬似的GSVシステム(図2)は、車いすに取り付けられたハンドルの回転角・車輪の回転速度に基づいてVR映像の更新を行う。システム利用時のおおまかな流れとしては、利用者が土台に固定されている足こぎ車いすに乗車し、ディスプレイに映しだされたVR空間を身ながら実際に操作した時の車輪の回転速度やハンドル回転角の情報をエンコーダにより取得し、マイコンからPCにシリアル通信で送る。この情報に基づいてVR映像をリアルタイムに更新することで、利用者に刺客的なフィードバックを行う。本システムでは足こぎ車いすの動きを取得するためのセンサは土台側と車軸にのみ取り付けられているため、車いすの取り外しが容易である。

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図2 システム概略図

擬似的GSVシステムを用いた自己定位能力の評価シナリオ

 離散間隔の変化が搭乗者の自己定位能力にどのような影響を与えるかを評価するため、同一経路をGSV内とVR空間内の2種類の環境で走行するシナリオを作成した。  本シナリオで作成した経路は、直線5本と90°の方向転換4回からなる経路(図3)である。これは方向転換数が5回以上になると、健常な若者でも道順を覚えるのが困難となる可能性があるからである。また、VRにおいて1回の移動で進む間隔は実世界で言う①離散なし(連続的)、②5m、③10mに該当する3種類を設定した。ここでいう離散なしとは通常の歩行とほぼ同等の滑らかな映像提示のことであり、10mはGSVで街中を閲覧した時とほぼ同じ離散間隔である。VR空間内の走行時、被験者は①~③のいずれかの離散間隔条件で各経路を1回ずつ、GSVにおいては同じ離散間隔条件(10m)で各経路を1回ずつの計6回走行する(図4)。

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図3 実験で用いた経路
表1 走行条件
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 評価指標にはホーミングベクトル(Homing Vector:HV)2)を使用した。これは目隠しをした状態で歩いた後、ゴールからスタート地点に向かって歩いた時に正解角度や距離からどの程度の誤差が生じるかを評価したものである。本研究では、進行方向を正面とした時、ゴール地点から見てスタート地点がどちらの方向にあるか、その誤差を健常な若者18名を対象に調べた。

図4 ホーミングベクトル
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擬似的GSVシステムを用いた自己定位能力の評価実験

 図5は角度の平均誤差(被検者全員の回答角度と正解角度の誤差の平均をとったもの)のグラフである。最も平均誤差が小さく、正答率が高かったのはroute02(VR、離散間隔10m)の41.63°であり、最も平均誤差が大きく、正答率が低かったのはroute03(GSV)の144.14°であった。離散間隔の条件間に有意差は見られなかったものの、すべての経路の中でroute03に属する4つの条件(離散なし、5m、10m、GSV)が最も平均誤差が大きいと言う傾向を示した。これは、回答方法が進行方向を正面とした時の、ゴール地点からみたスタート地点の方向を答えるというものであったため、route03の時の実、自らの後方を指し示す必要があったからだと考えられる。route01、route02は自分の前方に正解方向があるため、route03に比べて回答が容易であった可能性がある。この結果は方向推論における心的回転には進行方向が用いられ、正解角までの角度が大きいほど誤差が大きくなるという先行研究の結果3)とも類似している。  また、離散感覚が大きいほど自己地位能力に影響を及ぼし、平均誤差が大きくなると予想されたため、経路ごとに比較検証を行った。離散間隔0mの時に最も平均誤差が小さくなると予想されたが、平均誤差は各経路ごとにばらつきがあり、特筆すべき傾向は見られなかった。ANOVAを用いて検証を行ったところ、離散間隔条件間に有意差はなく、経路間に有意差が確認された。Steel-Dwass法を用いたところ、route2とroute03の間に有意差が見られた。この原因としては、前述したようにroute03が他の2経路と正解方向の質が異なるためと考えられる。

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図5 条件ごとの平均角度誤差とHV判断結果(降順)図6 条件別の平均角度誤差(VR全体)

 少なくとも離散間隔10mまではHV判断精度に大きな影響はなく、GSVのような広い離散間隔の映像提示でもある程度HV判断が行えることが示唆された。また、今回は経常な若者を対象に実験を行ったため、あまりHV判断精度に差は出なかった。高齢者や障害者で実験を行った場合はよりHV判断精度に影響を与える可能性が考えられる。

参考文献・研究業績

参考文献

1) 崔美季,サイバー空間内足こぎ車いす体験システムの開発に関する研究.学位学士論文.2012.

2) Fujita N, Loomis J M, Klatzky R L and Golledge R G:A minimal representation for dead-reckoning navigation:Updating the homing vector. Geographical Analysis. 22:326-335, 1990.

3) 山本直英,岡部篤行:曲がり角が一つある通路における定性的方向推論についての実験による分析. CSIS Discussion Paper:38, 2001.

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Last-modified: 2016-09-03 (土) 01:16:07 (1166d)

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