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足こぎ車いすの実走行追体験システムの開発

概要

 片麻痺患者のために開発された有効な移動手段として足こぎ車いす[1]が注目を集めている.足こぎ車いすは自転車のように自らの足でペダルを踏むことで駆動し,歩行や従来の手動車いすによる移動が困難な片麻痺患者でも健常側の足でペダルに大きな踏力をかけることで,手動車いすに比べて容易に走行できる.しかしながら,患者が実際に外出した際には坂道や段差のような車いす特有の障害に注意しなければならず,走行技能や体力を無視した走行計画をたてると途中で立ち往生してしまう危険性がある.この問題に対して,我々は仮想現実(Virtual Reality: VR)を利用した追体験システムを考案した.これによって,坂や段差を実際の経路に近い状態で一連の流れの中で訓練できる.このシステムを実現するためには,まず坂の傾斜や段差の高さといった情報を知る必要がある.本研究では足こぎ車いすにセンサを取り付けて走行情報の収集を行い,トルクや加速度から坂道や段差の高さを推定する手法を提案し,精度の検証を行った.

実走行情報の収集

 手動車いすの移動に必要な力量を測定・推定する研究は盛んに行われている[2,3].一方,本研究の目的であるVR追体験システムを開発するためには,足こぎ車いす走行時に必要な仕事や最大踏力を知る必要がある.そこで足こぎ車いすにトルクセンサとGPSセンサを設置して実際の歩道を走行する実験を行った.実験で得られたトルク波形の極大値と極小値を用いて,Fig. 1のようにそれらの平均値をとった平均トルク [Nm]を算出し,国土地理院で公表されている標高値と比較した.その結果,国土地理院の標高値で通常の上りや下り坂と表示される箇所に,平均トルクでは急峻な波形(図中実線矢印)や振幅が連続的に大きい波形(図中破線矢印)が現れることがあった.前者は歩道と車道を接続する歩道特有の急な上り傾斜面と下り傾斜面,後者は施設に入るためのスロープを走行した際に生じている.これらは足こぎ車いす走行において立ち往生しやすい難所と呼ばれる箇所であり, を用いることでそれらを検出できていることがわかった. しかしながら本実験により,段差によるトルク上昇が に反映されず,段差が検出されない場合があることが分かった.これは段差乗り上げが瞬間的な現象であるため,トルクセンサの構造上,乗り上げ時のクランク角度によって正しいトルクが取得できないことが原因である.したがってどのクランク角度で段差を乗り上げても,段差の高さを推定できるアルゴリズムが求められる.

Fig1.png
Fig.1 実際に走行した際の(a)平均トルク と(b)国土地理院標高値の比較

路面段差の高さ推定

 前述の通り,段差の高さを推定するには,瞬間的な現象を反映できる物理量を用いる必要がある.そのためには段差に衝突したタイミングを正確に把握し,トルクを時間積分する必要がある.したがって,段差高さ推定手法の第一段階として正確な段差乗り上げタイミングを求める.そのため加速度センサを新たに足こぎ車いすに設置し,Fig. 2に示すアルゴリズムで段差乗り上げタイミングを推定した.このアルゴリズムで求めた段差乗り上げタイミングと,カメラ撮影によって測定した段差乗り上げ時刻との平均二乗誤差はFig. 3のようになった.また,瞬間的な現象を反映できる物理量としてトルク面積(力積)と仕事を用いた.積分区間にはFig. 2のアルゴリズムで求めた段差乗り上げ時刻を利用し,トルク波形が類似していたクランク角度毎にまとめて解析を行った.Fig. 4に結果を代表して段差高さの違いに対するトルク面積の変化,加えてSteel-Dwass法を用いた有意差検定をの結果を記している.するとFig. 5の網掛け部で示した範囲のクランク角で段差を乗り上げた際にトルク面積,仕事の両方において16 mmと22 mmの間に有意差が見られた.しかしそれ以外のクランク角度においては有意差が見られず,現在用いているトルクセンサの仕様上,段差高さ推定が不可能であると判明した.このような領域で正しいトルク値を取得するためには右足のペダル踏力を測定可能にする必要があり,そのためにはペダル自体に歪ゲージを取り付ければよいと考えられる.また今後は,トルクではなく角速度や運動量,力学的エネルギーといった他の物理量に注目した推定も有効であると考えられる.

Fig2.pngFig3.png
Fig.2 段差乗り上げタイミング検出アルゴリズムFig.3 段差の乗り上げタイミングの平均二乗誤差
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Fig.4 段差高さの違いに対するトルク面積の変化Fig.5 段差乗り上げ時のクランク角度

まとめ

 経路走行情報収集においては,Web上のマップや国土地理院が一般公開している地理データでは把握できない段差や歩道特有の急斜面,施設に入るスロープなどを検知することができた.また段差推定においては,段差乗り上げ時刻と段差高さの推定手法を提案し,その結果16 mmと22 mm の高さを有意に区別することができた.これらの結果は,提案手法が患者の安全な外出のためのシステムにとって有用な技術になり得ることを示している.

参考文献・研究業績

参考文献

1) Y. Handa, K. Seki, T. Fujii, M. Sato, and T. Takahashi,An intelligent mobility support system for the disabled with andwithout FES, presented at the 2004 Japanese-Korean Joint Conf on Rehabil- itation Medicine, Kyoto, Japan

2) Y.Sumida, Method to Measure the Force Necessa- ry to Move a Manual Wheelchair to Construct the Data Base for the Manual Wheelchair Navigation, IPSJ Journal, 54, 146-155 (2013)

3) 岩澤有祐,3軸加速度時系列データからの車いす走行行動分析の研究, 第26回人工知能学会全国大会論文, 3D2-R-13-9 (2012)

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Last-modified: 2018-03-06 (火) 17:27:15 (616d)

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