Top / Research / 2015 / HealthMonitoring / NoncontactSensoring / ExtractBiolInfoBodyVideo

身体映像からの生体情報抽出に関する研究

概要

 日常生活における運動,精神的負荷,環境温度の変化などは突然の血圧変化を引き起こす場合があり,状況によっては生命に危険が及ぶ可能性がある.もし,生体の状態を常時モニタリングすることが出来れば,このようなリスクを事前に察知することが可能である.これに対し,近年,ウェアラブル端末を用いることで,日常生活下において手軽に生体信号をモニタリングすることが可能となってきた.しかし,血圧情報の取得に関しては1拍毎の変化を測定できる連続血圧計が非常に高価かつ大型であるため,ウェラブル端末に組み込むことは難しい.また,センサ装着による拘束感や皮膚への接触による不快感が生じるといった問題なども存在する. これに対し本研究では,カメラ映像を用いた非接触計測による血圧変動推定手法の提案を行う.また,健常な被験者を対象とした実験を通して,提案手法の有効性を検証する.

提案手法

 本手法では,血圧変動と相関を持つとされている脈波伝播時間(pulse transit time: PTT)の情報を得るために,心臓に近い側と末梢に近い側の2箇所にROIを設定し,ROI内の映像から映像脈波(image photoplethysmography: iPPG)を取得する.具体的には,設定したROI内の全画素における緑色輝度値の平均を映像の1フレーム毎に算出し,心拍と同期した拍動性信号を抽出する.緑色輝度値のみを対象とする理由は,この波長の光が血中ヘモグロビンを吸収しやすい特性を持つためである. 次に,2箇所のROIそれぞれで得られたiPPG信号に対してヒルベルト変換を用いて瞬時位相を求め,その差分を取ることで瞬時位相差(phase difference: PD)を計算した.このPDは2つのiPPG間における遅延時間に相当することから,PTT,すなわち血圧変動情報として用いることができると考えられる.図1にPDの計算例を示す.iPPG1は心臓に近い側のROIの映像脈波,iPPG2は末梢に近い側のROIの映像脈波の信号を表し,瞬時位相1はiPPG1から得られる瞬時位相,瞬時位相2はiPPG2から得られる瞬時位相の信号を表している.

図1.png
図1:瞬時位相差(PD)の計算例

実験

 iPPGから求まるPDが血圧変動を反映する指標として有効であるかどうかを検証するため,20名の健常成人被験者(22.8±1.1歳)を集めて実験を行った. 実験では,座位で5分間安静状態を保ってもらい,その中で1分間呼吸停止を行うことで血圧を意図的に変化させた.実験中,ビデオカメラを用いて被験者の顔面と手掌を撮影すると同時に,心電図,指尖の近赤外光容積脈波(irPPG),連続血圧の波形それぞれについても測定を行った.ビデオカメラで得られた映像からは提案手法であるPD,心電図とirPPGからは従来のPTT,連続血圧波形からは1拍毎の収縮期血圧(systolic blood pressure: SBP)を計算した.PDとPTTは0.04Hzの低域通過フィルタ処理を行った後,SBPとの相関を調べた.

結果

 図2に,代表的な被験者のSBPと身体の各部位(額,手,頬)のiPPGを用いて求めたPDを示す.手の領域を対象としたiPPGを含む2つのPDは,SBP に近い変動をしていることがわかる. 図3に,SBPとirPPGから得た従来のPTT,及びSBPとiPPGから得たPDについて,全被験者(n=20)の相関係数の平均値を示す.従来のPTTとSBPの相関係数は-0.42であった.一方で,額と手のiPPGから得たPDとSBPの相関係数は0.65であり,正負を除いて相関係数の大きさだけを比べた場合,PDの相関係数の方が有意に高い結果となった.また,従来のPTTが血圧変動に対して負の相関であるのに対し,PDは正の相関となっている点も特筆すべき結果である.

図2.png
図2:代表的な被験者のSBPと異なる2箇所のiPPGによるPD
図3.png
図4:PTT及び各部位のiPPGから得たPDについてSBPとの相関係数を全被験者(n=20)で平均した結果.*p < 0.05(ただし相関係数の絶対値を用いて検定を行った)

考察

 額と手のiPPGから得たPDとSBPとが正の相関を示したという結果は,血圧とPTTが負の相関関係を示すという従来の報告1)とは矛盾する結果である.この理由として以下のことが考えられる.

① 用いている光の波長によって生体組織への透過深度が異なる2)ことから,irPPGとiPPGとでは対象としている血管が異なっている.具体的には,近赤外光を用いたirPPGは動脈流,緑色光を用いたiPPGは毛細血管流における拍動情報を反映している.(図4左)

② 手掌領域では血圧上昇時に末梢血管抵抗が増大しており,その結果,皮膚表面の毛細血管網に拍動が伝わるのに遅延が生じる.一方,血管の神経支配が手掌と異なる顔面領域3)では末梢血管抵抗の増大が手掌ほど生じず,前述のような遅延が起こりにくいと考えられる.このことは,細動脈を可変抵抗,毛細血管をキャパシタと見立てた微小循環の電気回路モデルによって説明することができる.(図4右)

図4.png
図4:irPPG及びiPPGが反映している血管情報の違いと皮膚微小循環の電気回路モデルを用いた拍動遅延の説明

参考文献

1) Chen W, Kobayashi T, Ichikawa S, Takeuchi Y, Togawa T: Continuous estimation of systolic blood pressure using the pulse arrival time and intermittent calibration. Medical and Biological Engineering and Computing, 38(5), pp. 569-574, 2000.

2) Anderson R, Parrish J: The Optics of Human Skin. The Journal of Investigative Dermatology, 77(1), pp. 13-19, 1981.

3) Izumi H, Karita K: Somatosensory stimulation causes autonomic vasodilation in cat lip. The Journal of Physiology, 450, pp. 191-202, 1992.

研究業績

[1] 小原一誠,阿部誠,杉田典大,吉田智契,吉澤誠: 映像からの脈波情報抽出, 計測自動制御学会東北支50周年記念学術講演会, 資料番号A202, 東北大学, 2014年12月.

Counter: 2910, today: 1, yesterday: 1
Last-modified: 2016-09-03 (土) 01:16:07 (832d)

添付ファイル: file図4.png 573件 [詳細] file図3.png 563件 [詳細] file図2.png 491件 [詳細] file図1.png 565件 [詳細]