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足こぎ車いすの実走行追体験システムにおける力覚提示手法に関する研究

はじめに

 現在,脳卒中片麻痺患者のリハビリ器具として足こぎ車いすが注目されている.しかし,足こぎ車いすは初めて利用する際には操作が困難な他,外出する際には坂道や段差などの障害にも注意を向ける必要がある.これらの問題を解決するために,バーチャルリアリティ(VR)を活用した足こぎ車いすの操縦訓練システムや,実際の屋外走行を屋内で体験するためのシステムが研究・開発されてきた1)2).先行研究において,屋外走行の様子をVRを用いて再現し,あたかもその場の走行を屋内で体験できる追体験システムが提案されていたが,段差の検出に注力して研究が行われていたためシステムの殆どは未完成である.そこで,本研究では路上の障害物として坂道に注目し,走行中の力覚と視覚を組み合わせて再現することにより追体験を行うことが可能なシステムを作成した.

システムの概要

 本研究で作成したシステムを図1に示す.屋外走行時にトルクセンサや全天球カメラを足こぎ車いすに搭載して走行することで,走行に必要なトルクや周囲の映像の情報を収集し,それらの環境をDCモーターやパウダブレーキ,ヘッドマウントディスプレイを用いて室内で再現するシステムを開発した.まず,屋外では測定したペダルの回転数から求まる走行距離とその間の負荷を記録し,これを用いて屋内ではペダル回転数に応じた力覚負荷提示を行った.また,屋外で撮影した映像については,ペダルの回転に合わせてヘッドマウントディスプレイ上で再生されるようにした.

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図1 システムの概要

力覚情報の収集方法・提示手法

 前節で述べた屋外での情報収集システムを用いて,東北大学サイバーサイエンスセンター前から東北大学情報科学研究科棟までの下り坂,平地,上り坂と斜面が変化する経路をペダルの回転速度を60 rpmに統制して走行した.その際に得られたトルクの結果を図2に示す.図2より,下り坂を走行した際にはトルクの波形は増加し,上り坂を走行した際にはトルクは減少することがわかる.また,図2の波形から力覚負荷を再現するために,本研究では波形の極値間の平均値を平均トルクτ_aveとして計算した.τ_aveは走行している場所に応じて値が増減するため,坂道の状態を判断するための情報になると考えられる.そこで,平地におけるτ_aveを測定し,その値をもとにして走行経路における坂道の有無を判断することとした.さらに,ブレーキ及びモーターの出力との関係を求め,それを用いて屋内走行における負荷の制御を行った.

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図2 走行により得られたトルク波形

実走行の追体験に関する実験

 屋外を走行する場合と屋内でその走行を再現した場合についてそれぞれ実験を行い,構築した追体験システムが実際の走行をどれだけ忠実に再現できているか検証した.実験には健常な成人男性3名(22.6 ± 0.6 歳)が参加した.各被験者は前節で述べた経路と同じ場所を実際に走行した後,屋内で同経路の追体験走行を行い,それぞれの走行におけるτ_aveを比較した.実験中はペダルの回転速度を60 rpmに統制し,屋内の走行では本実験とは別に測定した同経路のτ_aveのデータ(元データτ_base)を用いて力覚負荷の再現を行った.

 屋内での追体験走行時に得られたτ_aveと元データの比較結果の例を図3に示す.図3において,黒色の線が追体験走行時のτ_ave,桃色の線が元データを示している.また,τ_aveが赤色の線よりも大きい時は下り坂,青色の線よりも小さい時は上り坂,赤色と青色の線の間の時は平地を走行していることを表す.この結果から,作成した力覚負荷のシステムを用いることで実際の走行を模擬することが可能であることがわかる.しかし,50秒から180秒付近までの下り坂と平地の変化点近くにおいて,追体験走行時のτ_aveの方が元データよりも値が大きくなっている.これは,下り坂を再現する際にモーターの出力に限界値を設定していることが原因だと考えられ,今後モーターの制御方法について改善が必要である.

 続いて,屋内での追体験走行時と屋外での走行時に得られたτ_aveについて比較した結果の例を図4に示す.実際に走行した箇所が元データのものと多少ずれていたことや,ブレーキやモーターなどの負荷機構の応答があまり高くないことにより,τ_aveの時間推移が10秒程度ずれているものの,本システムを用いることで実際の走行を大まかに再現できていることがわかる.しかし,一部の被験者では屋外走行時に正しくトルクが測定できていない箇所が存在したため,より路面の状況を正確に把握する方法が必要であると考えられる.また,実際の走行では慣性力が働くためクランク角度によっては踏力を加えなくても車輪が回転するが,ブレーキにより坂道を再現する際には常にブレーキがかかった状態となるため,実際の走行と追体験走行との間で漕ぎ方が大きな異なってしまう問題が存在した.そのため,今後はブレーキの出力をペダルの回転速度によって変化させるか,モーターにより慣性力を生み出す機構などが必要だと考えられる.

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図3 追体験走行時のτaveと元データの比較図4 追体験走行時と屋外走行時のτaveの比較

まとめ

 本研究では足こぎ車いす走行における坂道の再現を目標として走行追体験システムの作成を行った.本システムにおいて,屋外走行時の情報収集にはトルクセンサと全天球カメラ,屋内における走行の再現にはパウダブレーキ,DCモーター,ヘッドマウントディスプレイをそれぞれ使用した.また,作成したシステムの評価実験においては,本システムを用いることで坂道の様子を大まかに再現することに成功した.さらに再現度を高めるためには,慣性力の再現などが必要だと考えられる.

参考文献・研究業績

参考文献

1) 小島佳久,“仮想空間における足漕ぎ車椅子の走行技能評価・訓練システムの開発”,東北大学修士学位論文,2012

2) 菊池敏次,“足こぎ車いすの実走行追体験システムの開発”,東北大学修士学位論文,2015.

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Last-modified: 2018-03-06 (火) 17:49:05 (616d)

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