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深層学習を用いた乳房X線画像上の腫瘤検出システム

概要

 近年,乳がん患者数および乳がんによる死亡数は急激な増加傾向にある.この対策として,早期発見を目的とした乳房X線撮影(マンモグラフィ)による定期検診が推進されている.しかし,この受診者数の増加に伴い,読影を行う医師の負担増大が問題となっている.このような背景から,医師の負担軽減ならびに読影精度向上を目的に,自動検出した病変を医師に提示するコンピュータ支援診断(computer-aided diagnosis: CAD)システムの開発が行われている.

 乳がん画像所見のひとつである腫瘤は,画像上では類円形の高輝度領域として観察されるなど形状や辺縁に特徴をもつことが知られている.従来のCADシステムは,このような医師の読影論理を模した病変特徴を手動で設計し,この特徴に基づいて病変検出を行う.しかし,多様な病変を網羅する特徴は非常に複雑なものとなり,また医師の読影論理は経験や直感に基づく部分も多いために,画像特徴としての定量化は極めて困難である.このため,臨床応用に十分な性能をもつCADシステムの開発が課題となっている.

 本研究では,近年画像認識の分野で注目を集めているdeep convolutional neural network(DCNN)を用いた乳房X線画像上の腫瘤検出法を提案する.DCNNは画像特徴および識別規則を学習的に自動獲得することができ,医師の診断例をもとに学習することで,複雑な病変特徴を効率的に獲得できると期待される.さらに本研究では,正常な組織が左右乳房でほぼ対称に分布することに着目し,病変識別に左右乳房の対称性考慮を取り入れることで,臨床的に十分な検出性能の達成を試みた.

提案システム

 提案システムは図1に示すように,乳房X線画像より大まかな病変候補の選定を行う病変候補検出に,その対側領域の検出を加え,両側の候補領域よりDCNNを用いて病変識別を行うシステムである.

図1.PNG
図1 提案システムの全体像.

病変候補検出

 以下の3つの手順により,乳房X線画像(図2 (a))からDCNNに与える病変候補を検出し,region of interest: ROI画像を作成する.まず,腫瘤が乳腺組織に発生することに着目し,画像輝度分布をもとに乳腺を含む領域を抽出1)し,病変検出の対象をこの領域のみに制限する(図2 (b)).次に,腫瘤が局所的に高輝度である点に着目し,脂肪等による背景輝度を除いた後に閾値処理を行うことで,病変候補領域を抽出する(図2 (c)).その後,各病変候補領域を覆うようにDCNNに与えるROI画像の切り出しを行う(図2(d)).

図2a.PNG図2b.PNG図2c.PNG図2d.PNG
(a) 原画像(b) 検出対象領域(c) 病変候補領域(d) 病変候補ROI画像
図2 病変候補検出のながれ

対側ROI検出

 ここでは,病変検出の対象である注目側画像上で検出された病変候補ROIに対し,対側画像上での対称な位置より対側ROIを検出する.まず左右乳房のわずかな非対称性を補正するため,画像上より乳頭および乳房の胸壁側上下端の3点をランドマークとして検出する.これを基準としてアフィン変換を行うことで,左右の乳房形状を一致させる.続いて各病変候補ROIに対し,対側乳房上の対称な位置より対側ROI画像を作成する.

病変識別

 DCNNを用いて,病変候補より真の病変を識別する.本研究で用いたDCNNの構造を図3に示す.注目側および対側の1組2枚のROI画像を同時に入力し,与えられた注目側画像に腫瘤が含まれる確率,および正常組織のみを含む確率をそれぞれ出力する.このDCNNに対し,医師の診断例(ROI画像およびそれに対する診断結果)を用いて病変識別を学習させる.一般にDCNNの学習には大量の学習用画像データが必要だが,医用画像の場合には大量に収集することは困難である.そこで,あるタスクで獲得した知識を別のタスクに転用する転移学習を用いてこの問題を解決した.本研究では,まず大量に収集可能な自然画像を用いてDCNNの事前学習を行い,続いて病変候補ROI画像を用いて病変識別を学習させる(これをfine-tuningという).この手順により,事前学習で獲得した汎用な特徴を病変識別向けに転用し修正することができ,限られた数の医用画像から病変特徴を効率的に学習できると期待される.こうして病変識別を学習したDCNNに対し,未知のROI画像の組を与え,注目側ROIに腫瘤が含まれるか否かを判定させる.

図3.png
図3 2入力DCNNの構造.対称性を考慮した病変識別が可能.

病変検出実験

 提案システムの腫瘤検出性能を評価するため,乳房X線画像の公開データベースであるDigital Database for Screening Mammography(DDSM)2)を用いて病変検出実験を行った.腫瘤を含む乳がん患者487名の臨床画像のうち,DCNNの学習(fine-tuning)に用いるものとして417名,検出性能評価に用いるものとして70名分の画像を用いた.評価指標としてはCADシステムの検出性能評価で一般的なfree-response receiver-operating characteristic(FROC)曲線を用いた.結果を図4に示す.比較として,手動設計された病変特徴に基づいて検出を行う従来法3)の結果を併せて示す.提案法については,転移学習,対象領域制限,対称性考慮の有無による検出性能の変化を示す.なお,「対象領域制限なし」としては,乳房領域全体を病変検出の対象とした.提案法は,病変を正しく病変と指摘した割合である真陽性率が92%のとき,正常領域を誤って病変と指摘した個数が乳房X線画像1枚あたり0.93個となり,手動設計された病変特徴に基づく従来法を大幅に上回るだけでなく,臨床上十分な病変検出性能を達成した(図4中の矢印).また,検出結果の例を図5に示す.提案システムは病変を適切に検出・指摘できていることが分かる.

図4.png図5.png
図4 検出性能評価の結果.
曲線が左上隅に近いほど検出性能が高い.
図5 検出結果例.
赤:病変正解領域,黄:検出結果.


 本研究では,病変特徴を学習的に獲得するDCNNを用いた乳房X線画像上の腫瘤検出システムを構築した.臨床画像を用いた病変検出実験の結果,提案法は従来法を大幅に上回る検出性能を達成した.

参考文献

1)R.J. Ferrari et al., Segmentation of the Fibro- glandular Disc in Mammogram Using Gaussian Mixture Modeling, Medical and Biological Engineering and Computing, 42 (2004)

2)M. Heath et al., The Digital Database for Screening Mammography, Proceedings of 5th International Workshop on Digital Mammography, 212-218, (2001)

3)小形 他, 構造情報に基づく乳房X線画像上の腫瘤陰影検出法, 計測自動制御学会東北支部 第285回研究集会予稿集, 285-2 (2013)

研究業績

[1] 鈴木真太郎, 張暁勇, 本間経康, 市地慶, 魚住洋佑, 高根侑美, 柳垣聡, 川住祐介, 石橋忠司, 吉澤誠, \乳がん病変検出のための深層学習を用いた計算機支援画像診断システム," 計測自動制御学会第11 回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会, pp. 24-31, 大津市, 2017 年6 月

[2] 鈴木真太郎, 張暁勇, 高根侑美, 川住祐介, 石橋忠司, 本間経康, 吉澤誠, \乳がん病変検出のための深層学習を用いた計算機支援画像診断システム," 計測自動制御学会システム・情報部門学術講演会2017(SSI2017), pp. 804-805, 浜松市, 2017年11 月

[3] SSI 優秀発表賞, 計測自動制御学会システム・情報部門, 2017 年11 月27 日

[4] SSI 研究奨励賞, 計測自動制御学会システム・情報部門, 2017 年11 月27 日

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Last-modified: 2019-03-20 (水) 15:37:07 (121d)

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