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放射線治療のためのアフィン変換を用いた肺腫瘍運動の画像追跡に関する研究

はじめに

 放射線治療において,治療中に位置が変動する腫瘍に限局した照射を行うためには,移動する腫瘍に合わせて動的に照射を制御する方法が効果的である.動的照射制御の実現のためには,正確・高速な体内腫瘍位置追跡が重要である.

 正確・高速な体内腫瘍位置追跡を達成するために,例えばオプティカルフローに基づく方法1)などこれまでに多くのマーカレス腫瘍位置追跡法が提案されている.既存手法の多くに共通する課題として,腫瘍の変形が未考慮である点が挙げられる.すなわち,軟部組織である腫瘍には呼吸に伴い伸び縮みや回転といった変形が生じ,これを考慮しない追跡では,追跡誤差増大が懸念される.

 腫瘍の変形に対応可能な追跡手法としては,ホモグラフィ変換を用いた腫瘍追跡法が提案されている2).ホモグラフィ変換は,拡大・縮小,せん断,回転,平行移動,平面射影を表現可能な非線形座標変換であり,様々な変形表現に柔軟に対応する.一方,8次元の変換パラメータを最適化せねばならず,相対的な計算量の多さはリアルタイムな照射制御には不向きと考えられる.

 そこで本研究では,腫瘍変形の考慮とより高速な追跡の両立を目的とし,拡大・縮小,せん断,回転,平行移動を表現可能な座標変換であるアフィン変換を用いた腫瘍追跡法を提案する.

提案法

 提案法では,アフィン変換3)とその変換パラメータを高速に推定可能な手法であるCompositional algorithm4)を用いる.フレーム番号を$t$としたときの提案法の腫瘍追跡手順を図1にまとめる.

図1.png
図1 提案法の腫瘍追跡手順

アフィン変換

 アフィン変換は線形座標変換の一種である.座標 $x=(x,y)$ から $x'=(x',y')$ への座標変換は次式で表現される.

図3.png

式(1)の $a=(a_1,a_2,…,a_6 )$ をワープパラメータと呼び,$W(x;a)$ をワープ関数と呼ぶ.ホモグラフィ変換ではワープパラメータは8次元となり,くわえて非線形変換が含まれるのに対して,アフィン変換は6次元のワープパラメータと線形変換で構成される.

Compositional algorithmによるパラメータ推定

アフィン変換のパラメータ $a$ は,次の式で表現される最適化問題を解くことで推定される.

図4.png

ここで$I(x)$は入力画像,$T(x)$はテンプレート画像を表す.式(2)はあるワープ関数 $W(x;a)$ により変形した入力画像 $I$ のある領域 $Ω$ とテンプレート画像 $T$ との輝度の二乗和誤差を最小とするワープパラメータ $a$ を求めることを意味する. Compositional algorithmはパラメータ$a$を計算効率よく逐次的に推定する方法の一つである.反復回数を $n$ とした時,$n-1$回目の推定値 $a_{n-1}$ を基に更新量 $Δa$ を算出し,次式より $a_n$ へ更新する.

図5.png

上の更新式では $Δa$ 算出に必要なヤコビアンの計算が1回で済むため,高速な処理が期待される.

画像シーケンスへの適用

動画像中の腫瘍追跡は,フレーム $t$ においてパラメータ $a(t)$ を推定し,腫瘍重心座標をワープ関数 $W(x;a(t))$で変換することで達成される.パラメータ$a(t)$の推定に必要な初期値は次式のように定義した.

図6.png

ここで $a_{final} (t-1)$は,フレーム $t-1$ におけるパラメータの推定結果である.

実験

 アフィン変換を用いた腫瘍追跡法(Affine Transformation, AT)の追跡性能および処理速度を評価するため,臨床X線画像7例(15 fps, 120-710フレーム)を用いて腫瘍追跡実験を行った.また,アフィン変形の有効性検証のために平行移動のみを考慮した腫瘍追跡法(Only Translation, OT)とホモグラフィ変換を用いた腫瘍追跡法(Homography Transformation, HT)による追跡実験も実施した.追跡誤差の評価指標には,腫瘍重心位置の推定値と真値のユークリッド距離のフレーム平均,処理速度の評価指標には1フレームあたりの処理時間の平均値を用いた.  図1に提案法を用いた腫瘍追跡結果例を示す.テンプレート画像と最も類似されていると推定された領域には傾き回転といった変形が見られ,腫瘍に起こりうる変形に応じた追跡を行っていることが分かる.

図2.png
図2 提案法による追跡結果の例

 表1に各手法における平均追跡誤差の結果を,表2に,AT法,HT法における平均処理時間をまとめる.実験の結果,提案法は平均追跡誤差において最小の平均追跡誤差を記録した.加えて,AT法の平均処理時間はHT法と比較して短い結果となり,より高速に追跡可能であることが確認された.

表1 追跡誤差評価結果(mm)表2 処理時間評価指標(ms)
図9.png図10.png


 本研究では,変形し移動する肺腫瘍への正確かつリアルタイムな動的照射制御のため, アフィン変換を用いた腫瘍追跡法を提案した. 臨床X線画像を用いた腫瘍追跡実験では,従来法である平行移動のみ,ホモグラフィ変換を用いた腫瘍追跡法と比較して,提案法は最小の追跡誤差を示した.また,ホモグラフィ変換よりも高速に追跡可能であることが示された.このことから,提案法は動的照射制御に用いる追跡法として実用上,有力な選択肢であることが示された.

参考文献

1) P T Teo et al.: Tracking lung tumor motion using a dynamically weighted optical flow algorithm and electronic portal imaging device. Measurement Science and Technology, Vol. 24, No. 7, p. 074012, 2013.

2) X. Zhang et al.: A real-time homography-based tracking method for tracking deformable tumor motion in fluoroscopy. 2016 55th Annual Conference of the Society of Instrument and Control Engineers of Japan (SICE), pp. 1673–1677, 2016.

3) 末松良一,他:画像処理工学 コロナ社,2006.

4) S. Baker et al.: Lucas-kanade 20 years on: A unifying framework. International journal of computer vision, Vol. 56, No. 3, pp. 221–255, 2004.

研究業績

[1] 齊藤望,市地慶,張曉勇,本間経康,新藤雅大,髙井良尋,吉澤誠:“肺がん放射線治療のためのX線動画像中の標的腫瘍のアフィン変換に基づく追跡法“,計測自動制御学会 システム・情報部門 学術講演会2017,資料番号 : SS12-4,浜松市,2017年11月

[2] 齊藤望,市地慶,張曉勇,本間経康,新藤雅大,髙井良尋,吉澤誠:“放射線治療のためのX線動画像中の腫瘍のアフィン変換を考慮したマーカレス腫瘍追跡法”,第51回 日本生体医工学会 東北支部大会,資料番号:ME5-5,秋田市,2017年12月.

[3] SSI優秀論文賞,公益社団法人 計測自動制御学会 システム・情報部門,2017年11月

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Last-modified: 2019-03-20 (水) 15:32:18 (208d)

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